ひとくち伝言 平成12年3 月(108号)





 本堂には数々の仏具がありますが、本尊さんの前机や護摩壇など、漆塗りの物が多いですね。百観音の護摩壇も、本堂が新しくなる時に漆をきれいに塗り替えてもらったものです。前からあった同じ護摩壇なのに、塗り上がってきたらまるで別物のようにぴかぴかになっていて本当に驚いたわけですが、その時に変わったのは、仏具だけではなかったのでした。
 柄香炉(えごうろ)と言って、把手がついている真鍮の香炉があります。壇に上がって導師としての務めをする時は、あれを左の脇机から取り上げたり置き戻したりする所作を度々するのですが、以前は柄香炉をコトリと置いておりました。もちろん丁寧にやっているんですよ、無造作に振り回せば火の粉をまき散らしますからね。しかし漆を塗り替えてからは、無意識のうちにとても注意深くなっていたんです。音がしないようにそーっと柄香炉を置いている私がおりました。もちろん「漆にきずをつけたらいけない」という気持ち、いやもっと正直言えば「高かったんだから」という気持ちが働いていたのですが、ともかくその豹変ぶりに我ながらあきれたものでした。「漆というのは人まで変えるんだなあ」と、感じたものです。
 戦後、日常の暮らしの中でも様々な物が変化し、やたらに強く丈夫になったことを思います。あのデコラと呼ばれた化粧合板、あれが私たちの暮らしに登場してきたのは昭和三、四十年代ですが、こすっても叩いてもきずが付かないあの板の丈夫さには感激したものでした。こたつや座卓の天板はまたたく間にそのデコラにかわって行きました。鮮やかなプリント柄もありましたが、結局は「落ちつく」という理由で、木目の模様が多く好まれました。本物の木を失ってかえって木目の模様がもてはやされるというのも、文化史的に見たら重要な出来事でありましょう。昔の学校の木の机は「歴史が刻みこまれていく」ことを実によく理解させるものでしたが、いつしかそれも疵のつきにくい合板とスチール製に変わっていきました。デコラは戦後の人間を大きく変えてきたもののひとつだと、今にして思います。
 例えば赤ちゃんを抱き上げる時に、細心の注意を払ってやさしく抱くのはもちろんか弱いからです。もし落としても蹴っ飛ばしても平気ならば、あんなにやさしくはしないでしょう。壊れやすいから障子もそっとしめるし、お雛さまのかんざしもやさしく、やさしく扱うことになります。
 やさしさやいつくしみというものは、我々に死ということがあるから出てくるものではないかと思い至って、思わずはっとするのです。


百観音明治寺 住職 草野榮應







   ひとくち伝言板   


平成12年(仏紀2565年)3月の行事ご案内

3月 5日(日) 午前9時より  写経の会

3月 6日(月) 午後1時半より  法話の会

3月17日(金) 午後1時より  百観音月例法要 ならびに春彼岸 おせがき供養

3月9,22日(水) 午後6時半より 時をじーっと味わう、坐禅の会


4月8日(土) お釈迦さま降誕会(花まつり)−終日−
  当日午後7時より

花まつりコンサ−ト/チェンバロの夕べ

(於 百観音本堂)




 おかげ様で、節分の行事が無事にぎやかに終了いたしました。
 大勢の方のお力添えが支えになって、毎年続けることができることを、ありがたいと思います。まだまだ寒いですけれども、明るい日差しが復活してくると、何かよいことがありそうな気がしてくる、この頃ですね。

 今年も花まつりコンサートを予定しています。楽器の搬送や行事の運営のため一口1万円のご協賛を、どうぞよろしくお願いいたします。
 ご協力くださる方は、封筒に「花まつりコンサート協賛」と書いて、3月末までに、お届けください。(招待券ご希望の有無もお書き下さい)

 「沼袋の百観音には、献灯会で行ったことがある」「チェンバロを聴きに行ったことがある」という方が、少しでも増えてくれればと思っています。そして難民を支援するボランティアに、勇気づけになるようなこともできるお寺でありたいと、願っております。本尊さんが喜んでくれることですから…。

 2月18日に、近所の丸山小学校と野方小学校の3年生の訪問を受けましたので、「じゅうしょくさん」のあいさつをいたしました。私はこども達から質問を受けるのがとても楽しみです。というのは、思いも寄らないこどもの発想に触れることができるからです。「(石仏が)ほっぺたに手を当てているのは、歯が痛いからですか?」「たまねぎをお箸でさしたようなのは何ですか? それともあれはレモンですか?」。蓮のつぼみを玉葱と言われたら、彫られた仏師はどんなお気持ちでしょうね。「カラオケのマイク」よりはましかも知れません。去年は「観音さんはとっくりを持っているけど、コップがないのはなぜ?」という質問がありました。「君の心がコップなんだよ」なんて、すかさず言えたらよかったと思います。あるいは、「とっくりと考えなさい」なんてね。その「とっくり」とは蓮を挿す花瓶のことをさしていたようです。
 こどもたちのスケッチの写しを、今年もいただけることになりました。

 切手代感謝録 杉浦様、魚田様、野田様、太田様、田中様、藤田様、匿名様
 ありがとうございました。お礼を申し上げたいのは、他にも、節分のご奉納をいただいた方や、世話人をしてくださった方、お手伝いをしてくださった方、仏具のおみがきをしてくださった方などもいらっしゃいますが、ともかくお礼申し上げます。




東京都中野区沼袋二ノニ八ノ二〇
百観音明治寺 草野榮應